ピアノで育つ「表現力」——音に気持ちをのせる力

ピアノを習うときに大切にしたい力のひとつが「表現力」です。

音をただ正しく並べるだけではなく、そこに自分の気持ちやイメージをのせて演奏できるようになると、同じ曲でもまるで違う世界が広がります。

たとえば、発表会で同じ曲を弾く子が二人いたとします。

一人は楽譜通りに音を弾いているけれど、少し淡々としている。

もう一人は、音に抑揚があり、まるでお話を語るように弾いている。

聴いている人の心に届くのは、やはり「自分の気持ちをのせている演奏」です。

小さな子でも表現できる?

「まだ小さいから表現なんて難しいのでは?」と感じる方もいるかもしれません。

でも実は、小さなお子さんこそ表現力の芽がたくさん隠れています。

ある3歳の生徒さんのお話です。

初めての発表会で、短い子守唄を弾くことになりました。

練習ではただ音を並べていただけだったのですが、本番前に私が「この曲は赤ちゃんを眠らせてあげる子守唄なんだよ」と伝えると、彼女の弾く音が変わりました。

小さな手で鍵盤をなでるように弾き、最後の音は自分でもそっと耳を澄ますように。

聴いていた保護者の方も思わず笑顔になり、「音が本当に眠たそうだったね」と感想を伝えてくださいました。

この瞬間、彼女は「音で気持ちを伝えられる」という体験をしたのです。

表現力が育つと…

表現力が育つと、ピアノがぐっと楽しくなります。

「どうやったらこの音がキラキラするかな?」

「この部分は元気いっぱいにしたい!」

そんなふうに、自分の心と音のつながりを楽しめるからです。

別の生徒さん(小2)は「森のくまさん」を練習していたとき、最初は元気に弾くばかりでした。

けれど私が「くまさんがびっくりして逃げちゃったら?」と声をかけると、突然ピアノの音が小さく、そっとした響きに変わりました。

彼は目を輝かせて「音で隠れてるみたいにできた!」と嬉しそうに話してくれました。

こうした経験の積み重ねが「自分で表現できる!」という自信につながり、さらに音楽を好きになる原動力になっていきます。

おわりに

ピアノは「音を出す」だけでなく「心を届ける」楽器です。

小さな子どもでも、自分の気持ちを音にのせることができます。

「正しく弾けたらそれでよし」ではなく、

「どんな気持ちで弾きたい?」と問いかけることで、子どもたちの中から自然に表現力が育っていきます。

そしてその力は、演奏だけにとどまらず「人に伝える力」として日常生活にも広がっていきます。

子どもたちには、音を通して心の動きを表現する楽しさを、これからもたくさん経験してほしいと思っています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次