“選曲”は、その子の物語をつくる。ステージに立つ子どもの心を支える音の選び方

発表会の準備の中で、最初の山場になるのが「選曲」です。

これはただ“弾けそうな曲を選ぶ”だけではありません。

その子の今の姿、これから伸ばしたい力、内側に眠っている“光”を見つける、とても繊細なプロセスです。

選曲は、未来へ向かう小さな羅針盤。

どの音の物語を手にするかで、数ヶ月後の表情も変わっていきます。

1.子どもの“いま”と“ちょっと先”を見つける作業

曲選びで大切なのは、

「背伸びしすぎないこと」「簡単すぎないこと」

この二つの絶妙なラインを見極めることです。

成長心理学では、このゾーンを“最近接発達領域”と呼びます。

手を伸ばせば届く難しさは、子どもにとって心地良い刺激になり、

「できるようになりたい」という内発的動機を育てます。

反対に、難易度が高すぎると挑戦心は失われ、簡単すぎると達成感が弱い。

その子の心に灯っている火が、ちょうどよく燃える位置を探す。

これが、選曲の一番大切な工程です。

2.曲の“性格”が子どもを育てることもある

曲には、それぞれ性格があります。

跳ねるように弾む曲、静かに語る曲、堂々とした曲、繊細に編まれた曲。

どの曲を選ぶかで、レッスン期間中に子どもが育てる力も変わります。

たとえば

・集中を育てたい子には、静かに流れるメロディの曲

・積極性を伸ばしたい子には、前に踏み出すリズムの曲

・丁寧さを身につけたい子には、フレーズの呼吸が大切な曲

まるで“曲に育ててもらう”ような感覚があります。

曲は単なる音ではなく、子どもの性格に寄り添ってくれるパートナーです。

3.「その子の声が聞こえる曲」を選びたい

時々、“この子の心から音があふれてくる”と感じる曲があります。

それは、技術的に難しいかどうかではなく、

曲の世界観と、その子の感性がぴたっと重なる瞬間。

音の並びが、その子の言葉になり、

フレーズが呼吸になり、

ピアノが“その子自身の表現”へと変わります。

この瞬間を見つけるのは、指導者としての醍醐味でもあり、

子どもがステージで自信を持つ最大のポイントにもなります。

4.発表会は「一人ひとりにスポットライトが当たる日」

今回の発表会は、一人ひとりが5〜8分という持ち時間を持ちます。

これは、ただ曲を披露するだけの時間ではなく、

**“自分の物語をステージで語る時間”**です。

「どの曲で始める?」

「静かに始めて盛り上げる?それとも最初からキラッと輝く?」

曲の順番も、全体の流れも、その子のステージをつくる大切な要素。

一人の世界観を、しっかりステージに届けるための演出でもあります。

5.選曲は、発表会の成功を左右する“鍵”

選曲が上手くいくと、子どもは練習が楽しくなり、

曲と気持ちが自然に一体化していきます。

逆に、選曲が本人の感性と噛み合わないと、

練習への姿勢も重たく、音にも迷いが残ります。

だからこそ、選曲は最も大切な指導のひとつ。

一人ひとりの未来を思いながら、丁寧に選んでいます。

今年の発表会では、

誰もが“自分の音で、自分の時間を生きられるステージ”をつくりたい。

それが、私のいちばんの願いです。

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