発表会のステージには、独特の空気があります。
柔らかな静けさと、透き通った期待感。
この空気に包まれたとき、子どもの心に生まれるのが“良い緊張”です。
緊張は決して悪者ではありません。
むしろ、子どもが成長するための大切なエネルギー。
伸びようとする心が、ぎゅっとひとつに集まったサインでもあります。
今日は、その“良い緊張”が子どもをどのように育てるのかをお話ししたいと思います。
1.緊張は「脳が本気になるスイッチ」
緊張すると、心臓が早くなったり呼吸が浅くなったりします。
でもその裏側では、脳がすごい勢いで働き始めています。
・注意を集中させる力
・周りの音を聴き分ける力
・身体の感覚を研ぎ澄ます力
これらが一気に高まり、子どもは“いま”に集中します。
脳科学では、この状態を「最適覚醒」と呼び、
適度な緊張こそが、最大のパフォーマンスを引き出すとされています。
ステージでのピリッとした空気は、子どもの脳を“特別な状態”に押し上げてくれるのです。
2.緊張の中で出した音は、子どもに深く残る
普段のレッスンでは気づかない呼吸や感覚が、
ステージでは一つひとつ鮮明になります。
鍵盤に触れた瞬間の重さ
ペダルを踏んだときの響き
会場の空気に溶けていく音の軌跡
そのすべてが、子どもの身体に“記憶”として残ります。
この経験は、普段の練習では絶対に得られません。
発表会のステージが、子どもを音楽的にも人間的にも
大きく成長させる理由のひとつです。
3.緊張の先にある“解放感”が、自信の源になる
緊張して、ドキドキして、でも弾ききる。
この小さな挑戦の積み重ねほど、子どもを強くするものはありません。
「できた」
「やりきった」
「怖いと思ったけど進めた」
この体験は、自己効力感(やればできるという感覚)を育てます。
これが育つと、勉強もスポーツも、人間関係さえも前向きに取り組めます。
発表会は、練習の成果を見せる場所であると同時に、
自分の力を信じられるようになる特別な場所でもあります。
4.“ゆるい会ではない”理由
今回の発表会は、ただの温かい会ではありません。
あえて“ほどよい緊張感”を込めた構成にしています。
それは、
「本気で取り組むからこそ得られる達成感がある」
と知ってほしいからです。
ピリッとした空気で弾いた音には、日常とは違う深みが生まれます。
子どもはその空気の中で、集中と責任を学びます。
やさしさと厳しさのバランス。
この両方が揃ってこそ、ステージは“学びの場”になるのです。
5.緊張を味わうことは、人生の練習になる
緊張する場面は、人生の中で何度も訪れます。
初めてのテスト
新しいクラス
大切な面接
人前で話す場面
そんな時、
「わたし、あの時のステージも乗り越えたよね」
と、自分を励ます力になる。
発表会は、子どもの未来へ続く“心の支え”を育てる場所でもあるのです。
